その2 「学びの価値」

教師として学びを創る上で大切な事をいくつか述べて行こうと思っています。一つは事実と真実についてです。
そこに、どんな学びの価値を創り出すことができるでしょうか。読んで感じ取って頂けたら幸いです。

一般に「事実は一つ。真実は人の数ほどある。」などと言われることがあります。
客観的な事実に対して、それを観る人の見方(個々の主観)は様々だという意味でしょう。
このような事実と真実の有り様を、学びとしてどのように取り上げるのでしょうか。
それは2005年の新聞記事からです。

「舗装された道ばたのアスファルトの裂け目から、誰が植えたのでもない大根の種が発芽し、大きな大根へと成長していった」という内容でした。
名付けて根性大根。人々は驚き、感動しました。
「困難にへこたれない見上げた大根。人間も見習わなければ。」という声が多く聞かれました。
すると「我が町にも根性大根が!」とあちこちから画像などが寄せられたというのです。

その頃私は、現職の教員として4 年生の子等と学びを共にしていました。
丁度総合的な学習の時間で、環境をテーマに学習を進めている時でした。男の子がこんな事を言いました。
「僕は思うんだけど、大根には根性はないと思う。そうじゃなくて大根の種は、芽が出る条件が揃ったので発芽したし、そのあとはその場の「かんきょうよういん(環境要因)」が揃ったので、どんどん育ったと思うんです。」
習いたての「環境要因」という言葉を注意深くつかいながら、彼は話し続けました。
「・・・だから僕がすごいと思うのは、アスファルトの裂け目にできた条件で大根が芽を出して、土の中に残っていた命のかけら、― 栄養とつながって、大根として成長していった。そういう命のつながりがすごいと思います。」

アスファルトの裂け目から大根が芽吹き成長したという事実から、人々は自らの生き様と摺り合わせ、そこに根性を見出しました。
「根性大根」はそのようにして全国に広がりました。それが新聞記事となって人々の広がって行ったのですから、そこに普遍的な価値があったのだと思います。

一方4年生の男の子は、アスファルトの裂け目で育つ大根の事実を、解きほぐしたのです。
するとそこには、アスファルトに裂け目ができた事実。
そこに空気が入り込んだ事実、アスファルトの裂け目に水、空気、適度な温度の発芽の三条件が揃った事実。そして舗装前の土の中に栄養素が眠っていた事実などが、浮かび上がりました。

それら事実を時系列で繋げると、潜在的な命の繋がりと生態系の一片が浮かび上がります。
彼はそこに、繋がり持とうとする自然の生命そのもののエネルギーに感動したのでしょう。
彼の学びを教室に広げました。根性大根も一つの真実の物語であるでしょう。
そして男の子の話も、時空間を飛び越えた、命の繋がりの大きさを語る物語でもありました。

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